(1)参加農家の掘り起こし
地域の酪農家にとって良質な粗飼料の確保は経営を継続する上で重要な課題であることから、飼料用稲を栽培しホールクロップサイレージとして利用することについては、新たな粗飼料確保に向けた取り組みととらえ、酪農協の呼びかけに対して組合員の酪農家が結束するのは早かった。
酪農家は酪農協の組織のもとで、事業への取り組みについて共通の認識をもって、容易に参加者を募ることができたのだが、むしろ、飼料用稲を転作作物として栽培してくれる稲作農家をいかにして掘り起こし取りまとめていくかが課題に思われた。
こういった課題については、地方推進協議会において、作業の分担や栽培指導等について検討を重ねながら、協議会構成員であるJAの担当者が戸別に稲作農家の説得にあたり理解を求めることで、参加農家・栽培面積を増やすことに成功した。
堆肥を利用した有機農産物の生産に積極的に取り組もうとする耕種農家の参加が増えている。
(2)専用収穫調整機械の導入
降水量や土壌の排水性等の違いから、草地用の収穫機を転作田に持ち込める箇所は本県では少ない。
軟弱な圃場でも作業できるクローラ式の専用収穫機の導入には多額の資金を要するが、北東北の日本海側にある雪国秋田の立地、気象条件を考えた場合、限られた収穫適期に集中して作業を行なうためには、排水不良な土地でも利用可能な機器装備がどうしても必要となった。
地域の市町村でも、減反や粗飼料確保について、長年にわたって生産者と同様に課題として抱えてきており、こうした取り組みが課題の解決、さらには畜産農家で作られる堆肥を耕種農家に還元して資源循環型の農業が盛んになれば、付加価値のある農産物の生産にもつながり、地域農業の振興にも役立てられると考た。
当酪農協では、収穫調整機械の導入について国や県からの事業費補助を受け、さらにこうした理解のもと関係市町からの補助も受けることができた。
(3)栽培・利用体系
栽培農家と利用する畜産農家との間で協定(水田飼料作物利用供給契約)が結ばれ、収穫後の稲は無償で畜産農家に引き渡される形になっている。
稲作農家には、通常の稲の栽培と同じ機械・作業体系で飼料用稲の栽培を行なうことができるため、他の転作作物とは違い、新たな技術習得や投資等の負担がない点が受け入れられている。
稲作農家は、作付けから栽培までの管理を行ない、当酪農協は、収穫以降の作業を分担している。
収穫・調整作業は、酪農家が6〜7名で作業チームを編成し、専用収穫機1台と自走式ラッピングマシーン2台をセットとして行なっている。
現在は圃場が分散しているため機械の移動や製品の運搬に時間を要し、1日当たりの収穫作業面積は1.5ha程度となっている。
(4)栽培管理と収穫調整
稲ホールクロップサイレージの品質や給与体系については、県内他地域に先駆けての取り組みということもあり、開始当初は不安な面が多かった。
稲については、本県に適した飼料用の専用種が作られていなかったため、耐病性、耐倒伏性、穀実茎葉の収量を重視し、食用の「あきたこまち」や「ふくひびき」が栽培に用いられた。
施肥量、収穫時期、材料の水分量、茎葉部の発酵促進等の課題については、圃場での生育調査や、試験機関での試験結果、各農場での給与実証結果について情報を交換し合いながら、試行錯誤を重ねる中で解決を図ってきた。
これらをもとに「秋田県稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアル」が作られ、県内他地域での取り組みに役立てられている。
(5)生産コストと経済的効果
県では15円/kg程度の流通価格を目標としているが、生産コストは43円/kgと、一般に流通する粗飼料等に比べ割高となっているため、流通飼料として市場にのせることは現段階では難しい。
稲の栽培に要する経費は稲作農家に交付される転作助成金によって、収穫・調整に要する経費は給与する畜産農家に交付される実証給与助成金によって補われているような状況である。
稲作農家では、飼料用稲の栽培は通常の栽培に比べ80%の施肥で行なうことから資材費の節減になっていることや、稲の収穫以降の作業や収穫物の販売に頭を悩ませる必要ないこと等メリットとなっている。
稲ホールクロップサイレージを利用している酪農家では、これまで給与していた乾草やビートパルプの一部を代替させる形で、搾乳牛1頭1日当たり5〜7kg給与している。
購入飼料費の大幅な削減とはいかないまでも、地域で生産された安全性のわかる材料をもとに作られた飼料を利用できることがメリットと考えている。
直播方式で栽培作業の軽減も図っており、今後は分散する圃場を集積することによって作業の効率化を進め、さらに生産コストを引き下げられるよう取り組んでいきたいとしている。
|