耕畜連携による地域資源を活かした循環型農業の取り組み

−水田酪農地帯での稲ホールクロップサイレージの栽培と利用−

雄勝酪農農業協同組合(オガチラクノウノウギョウキョウドウクミアイ)

代表理事組合長 中村房司(ナカムラフサシ)

 

.地域の概況

 
(1)一般概況


 
本事例の活動が行われている湯沢雄勝地域は、秋田県南東部の横手盆地南端に位置し、岩手県・宮城県・山形県の県境と接するところにある。

気候は内陸型で、特に冬期の積雪量は2m以上、積雪期間は140日以上という県内最多積雪地帯で、山岳地帯では冬期間交通が途絶する箇所があるなど、日常生活や産業経済活動において、常に雪を意識しなければならない地域であり、全市町村が特別豪雪地帯に指定されている。

地域における産業の中核をなす農業は、県内でも単位当たり収量の多い稲作を中心としながら、畜産、果樹、野菜、花きの産地化が進められており、これらを加えた複合経営が盛んに行われている。

また、酒造業、木工業、漆器、仏壇など特徴ある優れた地場産業が古くから行われている他、近年は転作による農産物の生産や特用林産物を利用した加工業等にも力を入れている。

湯沢雄勝地域全体(1市3町2村)の耕地面積は、11,935haで、そのうち水田面積が9,899ha(82.9%)、普通畑1,199ha(10.0%)、樹園地485ha(4.1%)、牧草地350ha(2.9%)で、1戸当たりでみると1.29haで、県平均1.91haより0.62haほど少ない。

農家戸数は9,241戸で、このうち専業農家が643戸(7.0%)、第1種兼業農家1,127戸(12.2%)、第2種兼業農家6,030戸(65.3%)、自給的農家が1,441戸(15.6%)となっている。

農業産出額(平成13年度)は、190億4千万円で県全体の9.3%を占めており、その内訳は、米が最も多く93億5千万円(49.1%)、ついで野菜41億2千万円(21.6%)、畜産30億3千万円(15.9%)、果実15億7千万円(8.3%)となっている。

米以外には、畑作物のキュウリ、トマト、スイカ、イチゴの他、りんご、おうとう等果樹の生産が盛んである。

畜産は、酪農が30戸で1,190頭、肉用牛が310戸で4,070頭、養豚が30戸で24,280頭飼育されており、三梨牛といった秋田県を代表する肉用牛の産地でもある。 

 
(2)地域において畜産業が果たしている役割・機能


湯沢雄勝地域は、周辺を県境の山々に囲まれ、1,226kuある総土地面積の約80%を森林が占めている。

全市町村が特別豪雪地帯に指定されており、県内で最も積雪の多いところである。

積雪期間も140日と長いため、安定した農業経営を維持するために早くから稲作に他の作目を加えた複合型の経営が行われるようになった。

ビニールハウス等の施設利用型の農業や、気候に合った野菜・果樹の栽培、転作田を活かした特産農産物作りの他、酪農、肉用牛、養豚といった畜産部門への取り組みも、豪雪の北国では難しい周年作目に代わるものとして取り入れられている。

耕地面積のうち水田、普通畑、樹園地が97%を占め、畜産の中でも特に草地での粗飼料生産を行なう土地利用型の酪農や肉用牛経営には恵まれた条件になく、河川敷や転作田の一部を利用した自給粗飼料生産が行なわれてきた。

近年、消費者の安全志向から、無農薬や無化学肥料によって栽培された農産物が注目されるようになってきたことや環境保全の面から、堆肥需給を通じ、畜産農家と耕種農家との関係も緊密なものとなってきている。 

 

.当該事例の地域振興活動内容

 
(1)当該事例の地域振興活動の内容と地域社会で果たしている役割・機能


 
本県農業の基幹作目である稲作は、米の生産調整や、農家の高齢化、兼業化といった背景の中、転作作物の栽培についても、稲以外の栽培に適さない土地での作物の生産性が思うように伸びないといった理由から、地域によっては耕作放棄によって土地の荒廃が見られる等課題を抱えている。

一方で、土地利用型の大家畜経営では、経営の安定を図るために規模拡大を進める動きもあるが、特に自給粗飼料の生産基盤を十分に持たない経営では、粗飼料の確保について悩みを抱えている状況である。

 湯沢雄勝地域の酪農は水田酪農として発展してきており、自給飼料の生産は河川敷地や水田転作地の利用が中心で、団地化された牧草地は少ない。

そのため排水不良等の悪条件もあって、牧草の生産性は必ずしも高くなく、購入飼料に依存する傾向にあった。

雄勝酪農農業協同組合では、安定した経営の継続と消費者に信頼される牛乳・乳製品を生産していくためには、自給飼料生産基盤を確立し、安全で良質な粗飼料を確保していくことが必要であるいう観点に立って、組合員一同長年にわたって努力を重ねてきており、こうした思いが地域消費者に理解され、学校給食や宅配牛乳として利用される等広く受け入れられるようになってきた。

国内で生産された安全な飼料を増産しようとする機運が高まる中、飼料自給率向上対策として取り上げられた稲発酵粗飼料(稲ホールクロップサイレージ)は、水田をそのままの状態で自給飼料生産に転用できることや、栽培技術や転作への対応として容易に取り組めるものであることから、酪農家を中心に畜産農家と耕種農家が連携した形で飼料用稲の栽培と家畜飼料として利用に積極的に取り組み、それぞれに抱える課題の解決に向け努力している。

 平成13年度から、国や県、市町村の助成を受け、専用の収穫調整関連機械を導入し、試行錯誤を繰返しながら栽培技術や調整技術の向上に努め、給与実証を重ねて技術の確立と普及定着に努めてきている。

 本格的な事業開始から3年目を迎え、牛の嗜好性が良い高品質の安定した稲ホールクロップサイレージができるようになったことで、地域はもとより県内他地域においても飼料用稲の栽培が広がってきている。

 栽培面積が徐々に広がり、生産量が増えたことにより通年給与が可能となり、稲ホールクロップサイレージは飼料給与体系の大切な要素としてしっかりと組み込まれるようになってきた。

自給粗飼料生産基盤の乏しい水田酪農地帯である当地域での、耕種農家と酪農家の連携による飼料用稲の栽培と稲ホールクロップサイレージの利用は、転作田の活用と粗飼料確保を考える上で大きな意義を持つ。

さらに耕種農家の農地への堆肥の還元により、地域内の資源循環型の農業が実現され、消費者に受け入れられる農畜産物の生産と、安全な地域資源を利用した生産体系の確立につながるものである。 

 
(2)地域貢献図


 

 

 
(3)活動の成果に対する審査委員会の見解


 
本事例の取り組みは、草地面積が十分に確保できない地域における自給飼料生産基盤の確立と、稲作地帯での高齢化、兼業化等によって深刻化する耕作地の荒廃といった問題を解消する上で、効果的な取り組みと考えられる。

 自給飼料の生産基盤を十分に持たない酪農経営では、購入飼料に頼らざるを得ない状況にあるが、地域で生産されたものを粗飼料として活用できること、またその品質の向上のために相互に意見を交換し合いながら、年々質の高い粗飼料生産が行なわれてきていることによって、栽培・利用農家数を増やし、活動が地域に定着してきている。

 現段階では、水田転作に係る助成金や給与実証に係る助成金等、各種の補助事業に支えられているが、こうした事業を有効に活用しながらも、将来を視野に入れ、生産コストに対する意識を持って取り組んでいる。

 栽培に取り組む農家にとっては、栽培技術や労力、土地の転用といった面で対応が容易であることが利点としてあげられる。

 利用する畜産農家にとっては、現段階ではまだ、稲ホールクロップサイレージの通年給与にようやくたどり着いたところで、購入粗飼料の一部を代替する形で給与されており、購入飼料費の大幅な削減といった経済効果は十分に表れていないが、地域で生産された安全で質の良い粗飼料が確保できたことで効果がもたらされたといえる。

 耕種農家と畜産農家、双方で生産されるものを地域の中で有効に利用しながら資源循環型の農業が実践されており、それぞれの作物や家畜を育てるために安全で質の高い材料・資源を活用しながら、消費者に対して地域で生産される農畜産物の良さ、安全性への配慮、生産物に込める思いといったものを伝えながら、さらに連携した取り組みの輪が広がることによって、地域農業の振興につながるものと期待される。 

 

.当該事例の地域振興活動実施の詳細


(1)活動実施の目的と背景


 冬期間雪に閉ざされる地域で安定した農業経営を行なうために、多くの収入源を確保する観点から、稲作単作ではなくその他の作目を加えた経営、とりわけ畜産は周年作目にあたる部門として複合経営に取り入れられている。

 湯沢雄勝地域においても酪農振興の施策のもと、現在30戸(県内酪農家戸数の約14%)で酪農経営が行なわれている。

 限られた耕地の多くを水田が占めるため、自給粗飼料は河川敷や転作田の一部を牧草地として利用しており、団地化された草地は少ない。

 また、転作田への牧草の作付けは排水不良等が原因で収量が上がらない等、自給飼料の生産基盤は十分とはいえない面があった。

 そのため多くの酪農家が、濃厚飼料だけではなく粗飼料についても購入に依存した形で経営が行なわれており、経営体質の強化のためにも、良質な粗飼料を確保するための粗飼料基盤を確立することが課題となっていた。

 稲作については米の生産調整のための減反政策が進められ、米に代わる様々な転作作物が作付けされるようになり、地域に適合した特産農産物等が作られるようにもなったが、一方で、水田以外の用途には向かない土地の耕作放棄や荒廃が目立つようになる等、地域農業の先行きに不安な面も現れ始めていた。

 BSEの発生以降、輸入飼料の安全性に対する意識も高まる中、国内飼料自給率の向上を目指した国や県の施策が進められるようになり、県では秋田県稲発酵粗飼料推進協議会を立ち上げ、転作田の有効利用と畜産農家における粗飼料確保の両方の観点から事業を展開していく方針をかため、県内での普及に向け検討を行なった。

 当地域でも行政機関や関係団体で組織する雄勝地方稲発酵粗飼料推進協議会を作り、地域の抱える課題を解決するためには、転作田を利用した稲ホールクロップサイレージ作りを行なうことが有効な手段であるとして、国や県の事業を活用しながら本格的に取り組んでいくこととなった。 


(2)目的の達成内容と成果を生むまでの過程


 (1)参加農家の掘り起こし

地域の酪農家にとって良質な粗飼料の確保は経営を継続する上で重要な課題であることから、飼料用稲を栽培しホールクロップサイレージとして利用することについては、新たな粗飼料確保に向けた取り組みととらえ、酪農協の呼びかけに対して組合員の酪農家が結束するのは早かった。

酪農家は酪農協の組織のもとで、事業への取り組みについて共通の認識をもって、容易に参加者を募ることができたのだが、むしろ、飼料用稲を転作作物として栽培してくれる稲作農家をいかにして掘り起こし取りまとめていくかが課題に思われた。

こういった課題については、地方推進協議会において、作業の分担や栽培指導等について検討を重ねながら、協議会構成員であるJAの担当者が戸別に稲作農家の説得にあたり理解を求めることで、参加農家・栽培面積を増やすことに成功した。

堆肥を利用した有機農産物の生産に積極的に取り組もうとする耕種農家の参加が増えている。

 

 

2)専用収穫調整機械の導入

降水量や土壌の排水性等の違いから、草地用の収穫機を転作田に持ち込める箇所は本県では少ない。

軟弱な圃場でも作業できるクローラ式の専用収穫機の導入には多額の資金を要するが、北東北の日本海側にある雪国秋田の立地、気象条件を考えた場合、限られた収穫適期に集中して作業を行なうためには、排水不良な土地でも利用可能な機器装備がどうしても必要となった。

地域の市町村でも、減反や粗飼料確保について、長年にわたって生産者と同様に課題として抱えてきており、こうした取り組みが課題の解決、さらには畜産農家で作られる堆肥を耕種農家に還元して資源循環型の農業が盛んになれば、付加価値のある農産物の生産にもつながり、地域農業の振興にも役立てられると考た。

当酪農協では、収穫調整機械の導入について国や県からの事業費補助を受け、さらにこうした理解のもと関係市町からの補助も受けることができた。

 

 

3)栽培・利用体系

栽培農家と利用する畜産農家との間で協定(水田飼料作物利用供給契約)が結ばれ、収穫後の稲は無償で畜産農家に引き渡される形になっている。

稲作農家には、通常の稲の栽培と同じ機械・作業体系で飼料用稲の栽培を行なうことができるため、他の転作作物とは違い、新たな技術習得や投資等の負担がない点が受け入れられている。

稲作農家は、作付けから栽培までの管理を行ない、当酪農協は、収穫以降の作業を分担している。

収穫・調整作業は、酪農家が6〜7名で作業チームを編成し、専用収穫機1台と自走式ラッピングマシーン2台をセットとして行なっている。

現在は圃場が分散しているため機械の移動や製品の運搬に時間を要し、1日当たりの収穫作業面積は1.5ha程度となっている。

 

 

4)栽培管理と収穫調整

稲ホールクロップサイレージの品質や給与体系については、県内他地域に先駆けての取り組みということもあり、開始当初は不安な面が多かった。

稲については、本県に適した飼料用の専用種が作られていなかったため、耐病性、耐倒伏性、穀実茎葉の収量を重視し、食用の「あきたこまち」や「ふくひびき」が栽培に用いられた。

施肥量、収穫時期、材料の水分量、茎葉部の発酵促進等の課題については、圃場での生育調査や、試験機関での試験結果、各農場での給与実証結果について情報を交換し合いながら、試行錯誤を重ねる中で解決を図ってきた。

これらをもとに「秋田県稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアル」が作られ、県内他地域での取り組みに役立てられている。

 

 

5)生産コストと経済的効果

県では15円/kg程度の流通価格を目標としているが、生産コストは43円/kgと、一般に流通する粗飼料等に比べ割高となっているため、流通飼料として市場にのせることは現段階では難しい。

 稲の栽培に要する経費は稲作農家に交付される転作助成金によって、収穫・調整に要する経費は給与する畜産農家に交付される実証給与助成金によって補われているような状況である。

 稲作農家では、飼料用稲の栽培は通常の栽培に比べ80%の施肥で行なうことから資材費の節減になっていることや、稲の収穫以降の作業や収穫物の販売に頭を悩ませる必要ないこと等メリットとなっている。

 稲ホールクロップサイレージを利用している酪農家では、これまで給与していた乾草やビートパルプの一部を代替させる形で、搾乳牛1頭1日当たり5〜7kg給与している。

 購入飼料費の大幅な削減とはいかないまでも、地域で生産された安全性のわかる材料をもとに作られた飼料を利用できることがメリットと考えている。

 直播方式で栽培作業の軽減も図っており、今後は分散する圃場を集積することによって作業の効率化を進め、さらに生産コストを引き下げられるよう取り組んでいきたいとしている。 


(3)現在の課題と新たな展開方向


 自給飼料の生産基盤を十分に持たない酪農家にとって、稲ホールクロップサイレージは飼料給与体系の一部を担うものとして定着してきている。

現在、飼料用稲の栽培や稲ホールクロップサイレージの生産給与は、転作奨励や実証給与に係る各種事業の助成金によって諸経費を賄っている部分が多いが、今後、助成事業等がなくなっても需給が確保できるよう、低コスト生産のために必要な栽培圃場の集積と面積拡大による作業の効率化や、さらなる栽培調整技術の研鑚による品質の向上を目指していきたいとしている。

肉用牛繁殖農家、肥育農家への浸透を図ることによる需要の掘り起こしを進め、耕種農家での堆肥を利用した土作り、付加価値の高い農産物作りの輪が広がるよう、畜産農家から耕種農家への堆肥の供給体制を一層充実させ、循環型農業を確立させていく考えである。

また、将来的には、生産される畜産物についても、稲ホールクロップサイレージを給与して生産したことを前面に押し出した販売を展開していきたいとしている。

さらに、地域の資源を有効に活用して生産された新鮮で安心して食べられる農畜産物を安定して供給できるよう、生産者間の連携を強めながら取り組んでいきたいと考えている。

先ずは、地域で生産されたものをその地域の消費者に食べてもらえるよう地産地消を定着させ、地元で生産された食材の良さを理解し利用してもらえるような働きかけを、さらには県内外の消費者に対しても生産者が一体となった取り組みについて理解浸透を図りながら活動を展開していきたいとしている。

 国や県、関係市町からの事業費補助はこの取り組みの大きな支えとなっていることも事実であるが、生産者全員が常に品質と生産コストのバランスを意識しながら取り組んでいくことが、活動を地域に定着させ地域農畜産業を活性化するために必要であると考えている。 


(4)活動の具体的な実施体制


 


(5)活動の年次別推移


 

 

4.活動の評価

 


 評価者(氏名:佐 藤 亨、所属・属性:雄勝地域農業改良普及センター所長)

 

 当管内の酪農は、水田酪農として発展し、現在も自給飼料の生産は水田転作や河川敷地の利用が中心となっている。

排水不良などが原因で必ずしも牧草の生産性が高くないことから年々購入飼料に依存するようになってきており、輸入粗飼料の価格や質に左右されやすい経営になっている。

管内には組合運営の採草地があり周辺の酪農家はここから乾草を購入しているが、十分な量ではなかった。

 また、秋田特有の気候から牧草の収穫時期などは十分に天日乾燥が行えず、良質乾草の確保が困難なものとされていた。

 そのような状況にあって、稲発酵粗飼料の取り組みは、転作奨励の時勢と相まって注目されるようになり、管内でも耕種・畜産双方から取り組みに対する歩み寄りがあったことは自然な成り行きであったようだ。

 しかしながら、比較的均一な品質である購入飼料から品質の変動がある稲発酵粗飼料の利用への転換は酪農家個々にとって技術的にリスクを伴うものであることや、収穫などの作業分担をいかに行うかについては、実施する前に十分な検討を重ねなければならないところであり、雄勝酪農農業協同組合の果たした役割は大きなものであったと思われる。

 現在は転作助成金や給与実証助成金により生産者の負担が少ない運営となっているが、今後は、永続的に稲発酵粗飼料の利用を続けていくために生産者一人一人が自給飼料の確保の重要性について認識するとともに、「地域の粗飼料を使って生産される農産物」として消費者にアピールすることで地産地消を推進するなどして、地域農業がより一層活性化されることを期待している。 

 

5.まとめ

 


 米の生産調整のための減反政策が進められ、様々な転作作物の中から各地域に合った作目が選択され栽培されるようになったが、その一方で、稲以外の栽培に適さない土地での作物の生産性が思うように伸びないといった理由から、耕作放棄によって土地の荒廃が進むことが懸念されるようになってきた。

そのため、土地に適合した転作作目をいかに選択するかが各地域の課題となっている。

秋田県の湯沢雄勝地域は県南東部の横手盆地南端に位置し、岩手・宮城・山形と県境を接し、農業は稲作を基幹作目として、畑作や果樹、畜産等を組み合わせた複合型の経営が行われている。

 ここでの酪農は水田酪農として発展してきており、自給飼料の生産は河川敷地や水田転作地の利用が中心で、団地化された牧草地は少ない。

そのため排水不良等の悪条件もあって、牧草の生産性は必ずしも高くなく、購入飼料に依存する傾向にあった。

当地域の湯沢市と雄勝町と羽後町、3市町の15戸の酪農家で組織する雄勝酪農農業協同組合では、安定した経営の継続と消費者に信頼される牛乳・乳製品を生産していくためには、自給飼料生産基盤を確立し、安全で良質な粗飼料を確保していくことが必要であるいう観点に立って、組合員一同長年にわたって努力を重ねてきている。

国内で生産された安全な飼料を増産しようとする機運が高まる中、飼料自給率向上対策として取り上げられた稲発酵粗飼料(稲ホールクロップサイレージ)は、水田をそのままの状態で自給飼料生産に転用できることや、栽培技術や転作への対応として容易に取り組めるものであることから、当酪農協では、行政および関係団体との協力のもと、酪農家と耕種農家が連携した形で飼料用稲の栽培と家畜飼料として利用に積極的に取り組んでいる。

 平成13年度から、国や県、市町村の助成を受け、専用の収穫調整関連機械を導入し、試行錯誤を繰返しながら栽培技術や調整技術の向上に努め、給与実証を重ねて技術の確立と普及定着に努めてきている。

 本格的な事業開始から3年目を迎え、牛の嗜好性が良い高品質の安定した稲ホールクロップサイレージができるようになったことで、地域はもとより県内他地域においても飼料用稲の栽培が広がってきている。

 栽培面積が徐々に広がり、生産量が増えたことにより通年給与が可能となり、稲ホールクロップサイレージは飼料給与体系の大切な要素としてしっかりと組み込まれるようになってきた。

また、乳牛以外の畜種での利用に向けて、肥育牛への給与実証試験も行なわれ、肉質への影響はないといった結果も出ており、今後の普及拡大に期待がもたれている。

自給粗飼料生産基盤の乏しい水田酪農地帯である当地域での、耕種農家と酪農家の連携による飼料用稲の栽培と稲ホールクロップサイレージの利用は、転作田の活用と粗飼料確保を考える上で大きな意義を持つ。

さらに耕種農家の農地への堆肥の還元により、地域内の資源循環型の農業が実現され、安全な地域資源を利用した生産体系を広くアピールしながら、消費者に受け入れられる農畜産物の生産と地域農業の活性化に向け取り組まれている。