地域の耕畜連携から広がる安全安心の農産物作り

山田堆肥生産組合(ヤマダタイヒセイサンクミアイ) 組合長 井上信雄

宮渕大豆生産組合(ミヤブチダイズセイサンクミアイ) 組合長 井上 章

宮渕有機米研究会(ミヤブチユウキマイケンキュウカイ) 会長 井上栄悦

 

本事例は、秋田県湯沢市宮渕地区において、肉用牛肥育農家が環境三法の施行に先駆けて堆肥の重要性に着目し、共同で堆肥化処理施設を整備して、耕種農家が利用しやすい良質な堆肥の生産を行い、その利用を積極的に働きかける中で、地域の耕種農家との連携を築き、地域資源の有効活用に取り組んでいるものである。

肉用牛を経営の柱として位置づけ、維持していくためには、規模拡大等、一定規模の飼養頭数の確保が必要となるが、これに伴い環境保全の面で、家畜排せつ物の処理とその利用をいかにして進めるかが課題となっている。

特に、自給飼料生産のための草地等を多く持たない肉用牛経営の場合は、その堆肥等の利用先の確保が大きな課題となる。

肉用牛肥育農家でつくる山田堆肥生産組合では、堆肥化処理施設を整備し、耕種農家が利用しやすい堆肥生産を行い、販路拡大を積極的に進めてきた。

一方、同地区で、転作作物として大豆栽培に取り組む農家でつくる宮渕大豆生産組合では、農業を取り巻く環境が変化する中で、転作補助金に頼るのではなく、大豆の品質向上等、生産物そのものの商品価値を高めて行くことが大切であるという考えに立ち、堆肥を土壌改良材として利用することで、農業の基本である土づくりに力を入れている。

さらに、同地区の専業農家でつくる宮渕有機米研究会では、消費者が求める安全な農産物を供給するために、地域で生産された良質堆肥を活用し、無農薬栽培やアイガモ農法を取り入れた稲作を行い、一方では、ホールクロップサイレージ用稲の栽培にも取り組んで、肉用牛農家に粗飼料を還元している。

また、同研究会のメンバーでコントラクターを組織し、堆肥散布、ホールクロップサイレージ用稲の収穫、稲ワラ収集等の作業を請負い、地域の資源循環が円滑に行われている。

また、地域農産物の販売促進を図る中で、地元のみならず、首都圏の生協と結びつきをもち、地域のJAと協力して産地での交流活動を行うなど、生産者と消費者、相互の理解を深め合っている。

消費者からの生の声や食料に対する厳しい目を、逆に生産の励みとし、自分たちが生産したものが受け入れられることの喜びを実感しながら、さらに質の高い農産物づくりに活かそうと取り組んでいる。

堆肥の利用促進を図る上で、畑地での利用はもちろんであるが、本県においては最も栽培面積の広い水田での利用をいかに進めるかが鍵となる。

また、堆肥の流通コストを考えた場合、できるだけ生産された地域で利用されることが望ましいと言える。

こうした観点から、本事例は、地域の転作田での大豆生産及び稲作での利用を積極的に進めることにより、堆肥利用の拡大及び安定的な需要の確保に結びついていることや、堆肥を活用しながら消費者の求める安全で付加価値の高い農産物の生産に取り組んでいること、さらには、地域の資源循環を円滑に進めるコントラクター活動等、それぞれが連携し合い、地域の資源を相互に有効に活用した循環型農業が実践され、地域農業の活性化が図られている点が高く評価される。 

 

.地域の概況


(1)一般概況

本事例の活動が行われている地域がある秋田県湯沢市は、秋田県南東部の横手盆地南端に位置し、岩手県・宮城県・山形県の県境と接するところにある。

気候は内陸型で、特に冬期の積雪量は2m以上、積雪期間は140日以上という県内最多積雪地帯で、山岳地帯では冬期間交通が途絶する箇所があるなど、日常生活や産業経済活動において、常に雪を意識しなければならない地域であり、全市町村が特別豪雪地帯に指定されている。

地域における産業の中核をなす農業は、県内でも単位当たり収量の多い稲作を中心としながら、畜産、果樹、野菜、花きの産地化が進められており、これらを加えた複合経営が盛んに行われている。

また、酒造業、木工業、漆器、仏壇など特徴ある優れた地場産業が古くから行われている他、近年は転作による農産物の生産や特用林産物を利用した加工業等にも力を入れている。

米以外の作目としては、畑作物のきゅうり、トマト、スイカ、イチゴの他、りんご、おうとう等果樹の生産が盛んである。 


(2)畜産業が地域社会の中で担っている役割・機能

湯沢市とその周辺町村からなる雄勝地域は、周辺を県境の山々に囲まれ、1,226kuある総土地面積の約80%を森林が占めている。

湯沢市・雄勝地域は全市町村が特別豪雪地帯に指定される等、県内で最も積雪の多いところである。

ここでは、積雪期間が長いという条件を克服し、安定した農業経営を維持するために、早くから稲作に他の作目を加えた複合型の経営が行われるようになった。

ビニールハウス等の施設利用型の農業や、気候に合った野菜・果樹の栽培、転作田を活かした特産農産物作りの他、酪農、肉用牛、養豚といった畜産部門への取り組みも、豪雪の北国では難しい周年作目に代わるものとして行われている。

耕地面積のうち水田、普通畑、樹園地が97%を占め、畜産の中でも特に草地での粗飼料生産を行なう土地利用型の酪農や肉用牛経営には恵まれた条件になく、河川敷や転作田の一部を利用した自給粗飼料生産が行なわれてきた。

近年、消費者の食料の安全性に対する関心が高まり、無農薬や無化学肥料によって栽培された農産物が注目されるようになってきたことにより有機農業が見直され、堆肥の需給を通じ、畜産農家と耕種農家との関係が緊密なものとなってきている。 

 

2.活動の内容


(1)活動の対象

本事例は、地域において畜産農家と耕種農家が連携することによって、堆肥の利用拡大を進め、堆肥を使った農産物の生産を行うことで、消費者の安全安心に対する要求に応える取り組みが行われているものである。

肉用牛肥育農家(3戸、30〜250頭規模)で組織する堆肥生産組合では、家畜排泄物の適正な管理と利用促進を図るために堆肥化処理施設を共同で整備し、資源としての堆肥の活用を考え、地域内で有効に活用してもらえるように利用の拡大を進めてきた。

同地域の大豆生産組合(77戸、13ha栽培)や、有機米栽培に取り組む有機米研究会(4戸、有機米栽培面積9ha)との間で連携をもって堆肥利用を進め、さらには、きゅうりやトマトを栽培する農家等での利用も徐々に増加し、堆肥需要の拡大が図られてきた。

有機米研究会では、消費者の農産物に対する安全志向に応えるために、無農薬での米作りに取り組む一方で、家畜の飼料とするホールクロップサイレージ(WCS)用の稲を栽培し、肉用牛農家への供給を行っている。

また、有機米研究会のメンバーを中心に、コントラクター活動に取り組み、堆肥散布、稲ワラ収集、ホールクロップサイレージ用稲の収穫作業等を行って、それぞれの連携のもと、地域資源を相互に活用し合いながら、循環型農業に取り組んでいる。 


(2)活動開始の目的と背景

当活動が行われている地域のある湯沢市は、秋田県内でも酒造業が盛んな地域で、稲作では酒米の作付けも広く行われている。

酒米を作付けした後の水田に、通常のうるち米の稲を作付けする場合は、圃場での種子の混合を防止するために、一度稲以外の作物を作付けする必要があり、大豆はそのための転換作物としても栽培されている。

大豆栽培は、当初、水田の転作作物の中では、比較的手間がかからないものとして取り組まれていたが、農業を取り巻く環境が変化する中で、転作に対する補助金に頼るだけではなく、生産した大豆そのものの商品価値を高めることで、収益をあげていかなければならない状況へと変わってきた。

 こうした背景のもと、大豆生産者は、作業を共同で効率的に行うために、土地の交換分合等により積極的に農地の集約化を図り、さらには、農業の原点に返り、栽培の基礎となる土作りを見直しその対策を進めることとした。

一方、稲作を中心に、専業的に農業に取り組んでいた人たちは、近年の消費者の安全性に対する関心の高まりに応えるために、有機米研究会を作り、さらに、消費者の立場にたった農産物作りに取り組む中で、堆肥を積極的に利用した農業の推進を目指していた。

こうした中、堆肥の需要を伸ばしたい堆肥生産組合及び肉用牛農家と、土作りを行って、消費者の求める高品質で付加価値の高い農産物を生産したいという大豆生産者や稲作農家との思惑が一致し、地域一体となっての堆肥を活用した取り組みが始められた。


(3)具体的な活動内容


 本事例は、秋田県湯沢市の宮渕地区において、地域の農家で作る生産集団が連携し、堆肥を地域内で有効に活用して、農業の基本となる土作りを始め、生産物の品質の向上に努めながら付加価値の高い農産物作りを行い、地域一帯となって資源循環型の農業に取り組んでいるものである。

本活動が行われている宮渕地区は、湯沢市の北西部に位置し、稲作を中心に、大豆、きゅうり、トマト等の栽培が盛んに行われている地域である。

本事例の活動は、肉用牛農家で作る堆肥生産組合、及び質の高い大豆生産に取り組む大豆生産組合、並びに付加価値のある米作りを目指す有機米研究会等の生産者が、堆肥の活用を通して食の安全性に対する共通の意識をもって、消費者の求める農産物作りに取り組んでいるものである。

 

【山田堆肥生産組合】

本組合は、平成5年、当地区で250頭の黒毛和種を飼育する肉用牛肥育経営1戸と、近隣の地域で、同じく30頭から60頭規模の肥育経営を行っている肉用牛農家2戸で設立したものである。

それまでは、それぞれ堆肥を自己の所有する農地へ還元したり、個々に販売や稲ワラと交換する等して利用していたが、将来的に肉用牛経営を継続していくためにも、他の耕種農家での利用を増やす等、利用の拡大を図って行く必要性を感じていた。

広く堆肥を利用してもらうためには、利用しやすい良質なものでなければならないことから、堆肥化処理施設を整備し、本格的に堆肥の生産と販売に取り組んだ。

野菜から果樹や花きに至る様々な方面で利用してもらえるよう、また、農家以外にも、庭木や家庭菜園等で使ってもらえるよう、袋詰堆肥の生産も行っている。

これまでの堆肥販売のための営業努力により、固定客も徐々に増えてきたが、一層の需要の拡大と、安定した大口利用先の確保をいかにして実現するかを課題としていたが、地域内の耕種農家と連携することで、こうした課題を解決することができた。

堆肥生産組合で生産された堆肥全体の約80%が、本活動が行なわれている湯沢市及び周辺町村の雄勝郡内で利用されている。

本事例に関係する肉用牛農家では、オガクズの利用組合を組織(肉用牛農家4戸)し、地域の森林組合と契約して、敷料とするオガクズを安定的に確保している。

 

【宮渕大豆生産組合】

平成12年に設立した本組合は、宮渕地区及びその周辺の大豆生産農家77戸で構成され、約16haで大豆を生産している。

当初、水田の転作作物は、大豆を始め、牧草やトウモロコシの飼料作物等様々なものが作られていたことから、効率的な共同機械作業が進めにくいといった課題を抱えていたが、当組合の設立により、農地の交換分合等を行いながら集団転作が進められた。

大豆は、転作作物の中では、比較的手間のかからないものとして、栽培に取り組む農家が多かったが、農業を取り巻く環境が変化する中で、転作に対する補助金だけに頼っていては経営の安定につながらないことから、大豆そのものの商品価値を高めて、収益につなげて行こうという考えに立ち、先ずは基礎となる土作りに力を入れることとした。

生産した堆肥を地域で利用してもらいたい堆肥生産組合と、土作りのために良質の堆肥を求めていた大豆生産組合の思惑が一致したことで、堆肥の安定した需要が確保されることとなった。

当事例の活動が行われている秋田県湯沢市は、“酒の秋田”を代表する酒造業が盛んな地域で、当地区においても酒米の栽培が行われているが、大豆を始めとする転作作物の栽培は、こうした地域では特別な役割を果たしている。

一つは、酒米を作付けした後に通常のうるち米を作付けする場合には、圃場での種子の混合を防止するために、一度稲以外の作物を栽培し転作を行うというものである。

さらには、転作を行うことが水田雑草の抑制に効果があることから、稲を栽培した際に除草に係る労力や薬剤を減らすことができるといった意味をもっている。

一般に、大豆は肥料を多く必要としない作物とされているが、ここでは、堆肥を土壌改良資材として利用することで土作りを行って、収量及び品質の安定化につなげている。

堆肥の使用基準は、10a当たり1tを目安に、土地条件等を考慮しながら散布量を調整している。

近年、産地農産物の地元での消費を推進する「地産地消」の取り組みが盛んとなる中、生産された大豆はJAを通じて出荷され、県産大豆を原料とする加工品に利用されている。

 

【宮渕有機米研究会】

当地域を管轄するJAこまちでは、堆肥を稲作に活用し有機米として有利販売を推進している。

本研究会は、宮渕地区の専業農家4戸で平成14年に設立したもので、9haで堆肥を利用した米作りを行っている。

堆肥の散布は、水田10a当たり1.5tを目安に行っている。

生産された米は、60s当たり通常のものよりも1,500円高い値段で買い取られ、JA等を通じ県内や首都圏に出荷され、“ふーど米”という名前で販売されている。

消費者の食の安全性に対する関心の高まりを背景に、消費者が求めている農産物作りにこだわり、無農薬での栽培や、稲の出穂までの間アイガモの雛を水田に放し飼いにして除草等を行うアイガモ農法での米作りに取り組んでいる。

本研究会では、農業の原点に返っての土作りを始め、地域資源の有効活用による循環型の農業の確立を目指しており、それを実現するために様々な活動を行っている。

(1)コントラクター活動

当地域地域でも農業従事者の高齢化や兼業化が進み、堆肥は利用したいが堆肥散布が困難で利用できないといった声があったことから、堆肥をより多くの人に利用してもらうために、希望者には堆肥散布を行っている。

散布作業は、JAが所有する堆肥散布機を借りて行っている。

また、肉用牛農家へ粗飼料を供給するために、構成員自らホールクロップサイレージ用稲の栽培を行うとともに、平成14年度に補助事業を活用して収穫機等を整備して、約18haのホールクロップサイレージ用稲の収穫作業を請負っている。

さらに、肉用牛農家に供給する稲ワラを確保するために、稲ワラ収集がしやすいように、稲収穫前の水田の排水を促すための溝切り作業も行って、稲ワラ収集を実施している。

(2)消費者との交流  

地域を管轄するJAこまちでは、産直活動を通して、昭和63年から首都圏の生活協同組合との交流を深めてきた。

首都圏コープ事業連合は、首都圏の1都7県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、山梨県、茨城県、栃木県、群馬県)で活動を行う生活協同組合(会員組合員数76.5万人)の連合会で、安全・安心や環境への配慮といったテーマをもって、各地の提携産地とともに産直活動を行っている。

有機米研究会ではJAと協力し、「田んぼ交流」と銘打った田植えや稲刈り等の農作業体験の他、冬に行われる湯沢市の伝統行事「犬っこまつり」等に、生協会員の親子等を招き、現地でのふれあい活動を通して相互の理解が深まるよう交流を行っている。 


(4)活動の具体的な実施体制

 

 

 

3.活動の年次別推移

 


 

年次

活動の内容等

成果

課題・問題点等

平成5年

 

 

 

 

山田堆肥生産組合設立

・家畜排せつ物を資源として有効に活用するために、堆肥化処理施設を整備し、良質で利用しやすい堆肥作りに取り組む。

・良質な堆肥が生産されたことにより、堆肥の流通、利用の促進が図られた。

・地域の耕種農家での堆肥利用が増えたことにより、安定した需要が確保された。

・有機米研究会が行うコントラクター活動により、稲WCSや稲ワラ等、肉用牛農家の粗飼料確保が円滑に進められるようになった。

・飼養規模の大きい経営や規模拡大を目指す経営にとって、家畜排せつ物の処理(堆肥化)と並んで堆肥化後の利用をどのように進めるかが課題となっていた。

・堆肥の流通、利用を促進するには、良質なものを生産しなければならなかった。

平成12年

 

 

 

宮渕大豆生産組合設立

・商品価値の高い大豆生産を目指し、堆肥を利用した土作りに取り組む。

・集団転作の取り組みにより耕作地が集約化され、共同作業が効率的に行われるようになった。

・土作りのための堆肥の必要性に対する認識が、組合員に浸透した。

・転作に対する補助金に依存するだけでは、安定した収入が得られない農業情勢となってきた。

平成14年

 

 

 

 

宮渕有機米研究会設立

・堆肥を利用した有機米の栽培、アイガモ農法、無農薬栽培等により付加価値の高い米作りに取り組む。

・堆肥散布、WCS用稲の栽培及び収穫、稲ワラ収集等のコントラクター活動により、地域の資源循環が円滑に進むようになった。

・生産現場での農作業体験等、消費者との交流活動を通し、相互理解の促進が図られてきた。

・農業従事者の高齢化や兼業化が進む中、堆肥を利用したくても散布作業が困難で利用できない農家がいた。こうした需要を掘り起こし、堆肥の利用を促進することが、有機農産物の産地化につながると考えた。

 

 

4.活動の成果・評価


(1)活動成果の内容

環境三法の施行により、家畜排泄物の資源としての活用や資源循環型農業が推進されるのに伴い、各地に堆肥化処理施設が作られ、良質な堆肥の供給体制が整ってきている。

一方で、生産された堆肥の利用促進や販売先の確保といった面での課題を抱えているところも少なくはない。

こうした中、本事例では、地域で生産された堆肥を、その地域にある耕種農家が積極的に活用し、その需要を安定的なものにしている。

さらに、農業の基本となる土作りから、生産される農産物の品質の向上や消費者が求める安全な食料生産を目指して、付加価値の高い農産物作りが行われている。

堆肥を利用した農業を実践する中で、本活動に取り組んでいる農家個々が、互いに生産者としての食の安全性に対する意識を高め合い、さらには、消費者との交流を通して、消費者に喜んでもらえる農産物作りに、誇りを持って取り組むことができるようになってきた。

肉用牛農家への粗飼料の供給について、稲ワラ収集や稲ホールクロップサイレージの生産等が、コントラクター活動の中で行われることによって、一貫した資源循環型農業が円滑に推進されている。

これらの耕畜連携した取り組みが、安全な畜産物・農産物の産地化を目指す当地域の農業活性化の源となっている。 


(2)波及拡大にあたっての留意点

本事例は、集落を一つの地域とした各種の生産集団が土台となっていることで、互いに面識もある等、様々な取り組みを行う上で参加農家の合意が得られ易かった。

また、活動の対象となっている耕地面積が小〜中規模の範囲であることや、農地の交換分合による土地の集約化等で、効率的な共同作業が行えるようになったことも、円滑な取り組みの要因となっている。

全体的に農業者の高齢化や兼業化が進む中、堆肥を利用したいが労力的に散布するのが難しいというケースが多い。

本事例に見られる堆肥散布作業を請負うコントラクター活動は、堆肥の利用者及び需要の拡大に欠かせないものであり、他の地域での普及にあたり、こうした組織活動がポイントとなると考えられる。 

 

5.今後の課題


(1)当初目的の達成状況と残課題

堆肥の利用拡大、安定した需要の確保に向け取り組む肉用牛農家で作る堆肥生産組合と、農業の原点に返り、堆肥を利用して生産の基礎となる土作りから、消費者の求める安全で付加価値の高い農産物の生産に取り組もうとする耕種農家グループとの、相互の希望に沿った形で堆肥の利用が進められている。

また、堆肥散布から稲ワラ収集等の作業を共同で行うコントラクター活動により、畜産農家と耕種農家との間で、地域資源を円滑に循環させる体制が整ってきた。

こうした一連の活動を通じ、生産者個々の食の安全性に対する意識が高まったことに加え、消費者との交流等を通して相互の理解を深め合うことで、消費者の立場に立った、消費者が求める農産物作りが地域に定着してきた。 


(2)新たな展開方向



大豆栽培や稲作以外にも、地域で盛んに行われているきゅうり、トマト等のハウス栽培、及び果樹や花きでの需要も徐々に増えてきている。

今後の堆肥生産については、堆肥を利用する側の農家等の声をもとに、作物や用途に合わせた堆肥作りにも取り組んでいきたいとしている。

また、肉用牛農家で使用する粗飼料を地域内で100%自給することで、肉用牛経営の生産基盤の安定化を図るとともに、さらに堆肥利用の輪を広げ、消費者に受け入れられる安全な農畜産物の生産に継続して取り組んで行きたいとしている。

他の地域にも、それぞれの地域の畜産農家が生産した堆肥を使った様々な農産物作りが広がるよう働きかけながら、JA等とも協力し、商品価値の高い付加価値を備えた農産物作りを行って産地化を進め、活力と活気に満ちた地域作りを行っていきたいとしている。

これからも、常に消費者の立場に立った農業を目指し、取り組んで行きたいと考えている。 

 

6.活動に対する受益者等の声(評価)

 


 

氏名

所属・属性

声(評価)

佐藤

雄勝地域農業改良普及センター所長

当管内は古くから複合経営が盛んで、水稲・肉用牛を始めとする多様な作目の作付けを行っており、有機質資源の有効活用がこれからの農業に必要であるとの認識が持たれるようになってきている。

特に本事例のある宮渕地区は、早くから地域農業の将来像を見据えた地域全体の合意形成が進められ、若い担い手を中心とした転作大豆の作付けや有機米生産などの先駆的な取り組みが行なわれている。

資源循環型農業を積極的に推進している現在においては、周辺地域のお手本としての役割をも担っており、地域農業の今後のあり方を提唱してくれるものと期待している。

 

 

7.事例の特徴や活動を示す写真

 



 写真1 地域で堆肥を活用した取り組みを行っている集団のみなさん

 

 

写真2 堆肥の原料を供給する肉用牛経営(黒毛和種肥育)

 

 写真3 山田堆肥生産組合の堆肥化処理施設(外部)

 

 

 写真4 堆肥化処理施設(内部)

 

 

 写真5 堆肥(製品)の堆積場所、需要が多く在庫が少ない

 

 

 写真6 袋詰で販売されている堆肥、家庭菜園や花での利用も多い

 

 

 写真7 宮渕大豆生産組合の組合員の転作田を利用した大豆畑

 

 

 写真8 宮渕有機米研究会の会員の水田、堆肥を利用した有機米生産に取り組んでいる

 

 

 写真9 アイガモ農法で無農薬での米作りにも取り組んでいる

 

 

 写真10 宮渕有機米研究会のメンバーで行っているコントラクター活動(1)

       :ホールクロップサイレージ用稲の収穫作業

 

 

 写真11 ホールクロップサイレージ用にラッピングした稲を肉用牛農家に供給している

 

 

 写真12 コントラクター活動(2):堆肥散布

 

 

 写真13 堆肥散布は、地域のJAが所有する堆肥散布機を使用して行っている

 

 

 写真14 有機米研究会及び地元JA等が協力して実施している生産現場での消費者との交流活動

 

 

 写真15 JAを通じて交流のある首都圏コープ事業連合の消費者のみなさんとの「田んぼ交流」

田植えや稲刈り等の農作業体験を通して、生産者と消費者、相互の理解を深めあっている