本事例は、秋田県湯沢市の宮渕地区において、地域の農家で作る生産集団が連携し、堆肥を地域内で有効に活用して、農業の基本となる土作りを始め、生産物の品質の向上に努めながら付加価値の高い農産物作りを行い、地域一帯となって資源循環型の農業に取り組んでいるものである。
本活動が行われている宮渕地区は、湯沢市の北西部に位置し、稲作を中心に、大豆、きゅうり、トマト等の栽培が盛んに行われている地域である。
本事例の活動は、肉用牛農家で作る堆肥生産組合、及び質の高い大豆生産に取り組む大豆生産組合、並びに付加価値のある米作りを目指す有機米研究会等の生産者が、堆肥の活用を通して食の安全性に対する共通の意識をもって、消費者の求める農産物作りに取り組んでいるものである。
【山田堆肥生産組合】
本組合は、平成5年、当地区で250頭の黒毛和種を飼育する肉用牛肥育経営1戸と、近隣の地域で、同じく30頭から60頭規模の肥育経営を行っている肉用牛農家2戸で設立したものである。
それまでは、それぞれ堆肥を自己の所有する農地へ還元したり、個々に販売や稲ワラと交換する等して利用していたが、将来的に肉用牛経営を継続していくためにも、他の耕種農家での利用を増やす等、利用の拡大を図って行く必要性を感じていた。
広く堆肥を利用してもらうためには、利用しやすい良質なものでなければならないことから、堆肥化処理施設を整備し、本格的に堆肥の生産と販売に取り組んだ。
野菜から果樹や花きに至る様々な方面で利用してもらえるよう、また、農家以外にも、庭木や家庭菜園等で使ってもらえるよう、袋詰堆肥の生産も行っている。
これまでの堆肥販売のための営業努力により、固定客も徐々に増えてきたが、一層の需要の拡大と、安定した大口利用先の確保をいかにして実現するかを課題としていたが、地域内の耕種農家と連携することで、こうした課題を解決することができた。
堆肥生産組合で生産された堆肥全体の約80%が、本活動が行なわれている湯沢市及び周辺町村の雄勝郡内で利用されている。
本事例に関係する肉用牛農家では、オガクズの利用組合を組織(肉用牛農家4戸)し、地域の森林組合と契約して、敷料とするオガクズを安定的に確保している。
【宮渕大豆生産組合】
平成12年に設立した本組合は、宮渕地区及びその周辺の大豆生産農家77戸で構成され、約16haで大豆を生産している。
当初、水田の転作作物は、大豆を始め、牧草やトウモロコシの飼料作物等様々なものが作られていたことから、効率的な共同機械作業が進めにくいといった課題を抱えていたが、当組合の設立により、農地の交換分合等を行いながら集団転作が進められた。
大豆は、転作作物の中では、比較的手間のかからないものとして、栽培に取り組む農家が多かったが、農業を取り巻く環境が変化する中で、転作に対する補助金だけに頼っていては経営の安定につながらないことから、大豆そのものの商品価値を高めて、収益につなげて行こうという考えに立ち、先ずは基礎となる土作りに力を入れることとした。
生産した堆肥を地域で利用してもらいたい堆肥生産組合と、土作りのために良質の堆肥を求めていた大豆生産組合の思惑が一致したことで、堆肥の安定した需要が確保されることとなった。
当事例の活動が行われている秋田県湯沢市は、“酒の秋田”を代表する酒造業が盛んな地域で、当地区においても酒米の栽培が行われているが、大豆を始めとする転作作物の栽培は、こうした地域では特別な役割を果たしている。
一つは、酒米を作付けした後に通常のうるち米を作付けする場合には、圃場での種子の混合を防止するために、一度稲以外の作物を栽培し転作を行うというものである。
さらには、転作を行うことが水田雑草の抑制に効果があることから、稲を栽培した際に除草に係る労力や薬剤を減らすことができるといった意味をもっている。
一般に、大豆は肥料を多く必要としない作物とされているが、ここでは、堆肥を土壌改良資材として利用することで土作りを行って、収量及び品質の安定化につなげている。
堆肥の使用基準は、10a当たり1tを目安に、土地条件等を考慮しながら散布量を調整している。
近年、産地農産物の地元での消費を推進する「地産地消」の取り組みが盛んとなる中、生産された大豆はJAを通じて出荷され、県産大豆を原料とする加工品に利用されている。
【宮渕有機米研究会】
当地域を管轄するJAこまちでは、堆肥を稲作に活用し有機米として有利販売を推進している。
本研究会は、宮渕地区の専業農家4戸で平成14年に設立したもので、9haで堆肥を利用した米作りを行っている。
堆肥の散布は、水田10a当たり1.5tを目安に行っている。
生産された米は、60s当たり通常のものよりも1,500円高い値段で買い取られ、JA等を通じ県内や首都圏に出荷され、“ふーど米”という名前で販売されている。
消費者の食の安全性に対する関心の高まりを背景に、消費者が求めている農産物作りにこだわり、無農薬での栽培や、稲の出穂までの間アイガモの雛を水田に放し飼いにして除草等を行うアイガモ農法での米作りに取り組んでいる。
本研究会では、農業の原点に返っての土作りを始め、地域資源の有効活用による循環型の農業の確立を目指しており、それを実現するために様々な活動を行っている。
(1)コントラクター活動
当地域地域でも農業従事者の高齢化や兼業化が進み、堆肥は利用したいが堆肥散布が困難で利用できないといった声があったことから、堆肥をより多くの人に利用してもらうために、希望者には堆肥散布を行っている。
散布作業は、JAが所有する堆肥散布機を借りて行っている。
また、肉用牛農家へ粗飼料を供給するために、構成員自らホールクロップサイレージ用稲の栽培を行うとともに、平成14年度に補助事業を活用して収穫機等を整備して、約18haのホールクロップサイレージ用稲の収穫作業を請負っている。
さらに、肉用牛農家に供給する稲ワラを確保するために、稲ワラ収集がしやすいように、稲収穫前の水田の排水を促すための溝切り作業も行って、稲ワラ収集を実施している。
(2)消費者との交流
地域を管轄するJAこまちでは、産直活動を通して、昭和63年から首都圏の生活協同組合との交流を深めてきた。
首都圏コープ事業連合は、首都圏の1都7県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、山梨県、茨城県、栃木県、群馬県)で活動を行う生活協同組合(会員組合員数76.5万人)の連合会で、安全・安心や環境への配慮といったテーマをもって、各地の提携産地とともに産直活動を行っている。
有機米研究会ではJAと協力し、「田んぼ交流」と銘打った田植えや稲刈り等の農作業体験の他、冬に行われる湯沢市の伝統行事「犬っこまつり」等に、生協会員の親子等を招き、現地でのふれあい活動を通して相互の理解が深まるよう交流を行っている。
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