酪農
経営

地域社会と調和しながら確立した草地型酪農

秋田県由利本荘市  柴 田  輝 男 ・ 誠 子

 

.地域の概況

 

 

本事例が所在する由利本荘市は、秋田県の西南部に位置し、県都秋田市には20〜60qの圏内にあり、南に秀麗鳥海山、東に出羽丘陵を背し、中央を1級河川子吉川が貫流して日本海に注ぐ。面積1,209kuは県内一を誇り、平成17年3月に、人口91千人、1市7町村の合併によりできた新しい町である。気候は、県内では比較的温暖な地域であるが、海岸部と山間部では気象条件が異なり、特に冬季においては積雪量に大きな差がみられる。

地域農業の核となるJAは、市町村合併に先行し、平成9年4月に由利本荘地区11JA(17千組合員)が広域合併し、夫々の気候・地域特性をいかしながら営農に取り組んでいる。農業産出額は20,400百万円で、その基幹作目は71.2%を占める米となっているが、これに次ぐ作目として、畜産11.5%、野菜10.7%となっている。

畜産農家戸数は680戸、産出額は2,310百万円で、うち肉用牛56.7%、乳用牛9.1%、その他となっており、肉用牛については、「由利牛」の産地として繁殖生産の盛んな地域で、県内最大の家畜市場を有している。また乳用牛は、古くは集約酪農地域指定を受けた地域でもあり、鳥海山麓を中心に飼養されており、ジャージー種も飼養されている。



2.経営・生産の内容


(1)労働力の構成



 

続柄

年齢

農業従事日数

年   間

総労働時間

労賃単価

備  考

(作業分担等)

 

うち畜産部門

 

家 族

本人

53

350

350

3,500

1,000

搾乳、哺育、飼料給与堆肥生産、粗飼料生産

 

53

350

350

2,975

1,000

搾乳、飼料給与、経理

 

二女

24

350

350

2,100

1,000

搾乳、哺育、飼料給与

 

300

300

2,400

471.7

飼養管理全般

300

300

2,400

471.7

飼養管理全般

臨時雇

のべ人日

 119 人

 

952

 

1,000

飼料給与、堆肥生産

粗飼料生産

労働力

合 計

6.5

1,769

1,769

14,327

時間

 

 

  
(2)収入等の状況



 

 

 

品目名

作付面積

飼養頭数

販売量

販売額・

収 入

構成比

農業生産部門収入

畜 産

牛乳

経産牛65.7

550,705s

53,059,242

89.8

子牛

哺育育成24.5

43

5,115,330

8.7

堆肥

2tダンプ160

912,000

1.5

耕種

 

 

 

 

 

 

林産

 

 

 

 

 

 

加工・販売

部門収入

 

 

 

 

 

 

農 外

収 入

 

 

 

 

 

 

合 計

 

 

 

59,086,572

100

 

  
(3)経営・技術等の実績


 

  
(4)自給飼料の生産と利用状況



使用

区分

飼料の

作付体系

地目

面 積(a)

所有

区分

総収量

(t)

10a当たり

年間収量

t

主 な

利用形態

(採草の場合)

実面積

のべ

面積

 

採草

 

 

飼料

 

 

オーチャード・チモシー混播

 

 

飼料イネ

 

草地

 

 

 

3,900a

 

 

100a

 

 

 

 

 

 

3,900a

 

 

100a

 

 

借地

 

 

自己

 

1,589

 

 

12

 

4

 

 

 

 

1番草:半乾サイレージ

2番草:半乾サイレージ

3番草:半乾サイレージ

自家利用

 

 

 

  

4,000

4,000

 

1,601

 

 

 

 

3.経営実績の特徴

 

本県では、畜産は米、野菜に次ぐ基幹作目であり、安定的需要が見込まれることから、低コスト、高品質化に努め、受精卵移植や育種価等新技術を活用した生産対策、既存草地の計画的整備等による飼料作物推進等、飼料自給率の向上、環境と調和した農業の推進等を進めているところである。

1.自給飼料生産基盤に立脚した生産管理技術の確立

乳牛については、特に泌乳能力の向上と低コスト生産を推進するため、乳用牛群検定の普及定着を進めている中で、当該事例は、酪農経営に係る主要な技術項目について、いずれも県農業公社の経営指標を上回る実績を収めており、過去との時系列の比較でも高位安定した成績が見られるが、それを支える要因の一つに、計画的な更新による草地基盤整備と、有機質堆肥の効率的草地還元による肥培管理が挙げられる。生産した堆肥については、砂丘地という地域の特性から、いちじくやアスパラ生産農家からの需要が多く、全体の6割を耕種農家へ販売している。草地には自家生産した堆肥と土壌改良剤を投入し、土壌分析を行いながら地力向上に努め、安定した収量を確保している。

この良質な粗飼料の十分な確保を経営の核とし、飼料自給率の向上による購入飼料費の低減を実現し、高い収益性を維持している。

2.高泌乳牛群整備への取り組み

本県では、家畜防疫・生産振興・消費者への責任という観点に立ち、平成11年度から家畜個体識別モデル事業に取り組み、乳用牛群検定事業と連携させた形で個体管理を全国に先駆けて実施した。この取り組みは、牛の個体情報を流通・消費段階まで正確に伝達させることはもとより、乳牛の形質改良と能力向上を図るという役割を果たしている。

当該事例は、このモデル事業の耳標(牛群検定の牛コードと連携したもの)の装着にいち早く取り組み、現在まで牛群検定成績等の分析結果をもとに泌乳能力の高い牛群整備を行っている。また、ET技術を活用した付加価値生産にも率先して取り組んでいる。このように積極的な牛の改良で、昭和502月に兵庫県淡路島で開催された第6回全日本ホルスタイン共進会から6回連続出品を果たしており、これを自分がこれまで取り組んできたことの成果を確認する機会と捉え、更なる改良に向け努力している。

現在経営主は、県の生産者団体である秋田県酪農連盟の会長や、広域合併JAの酪農部会長を務めるなど、県内酪農家のリーダーとして活動している。責任ある生産活動が消費者に対する責任を果たすと考え、牛群検定事業への加入を積極的に働きかけている。現在の本県の検定加入率は50%であり、これは都府県平均を超えているが、目標は全戸加入である。また、肉用として出荷する子牛の履歴を記録するために、日本ホルスタイン登録協会秋田県支部に働きかけ、出生確認証明書を出荷時に添付するようにした。


 
 

4.経営の歩み


(1)経営・活動の推移

  

年 次

作目構成

頭(羽)数

経営および活動の推移

昭和40

 

昭和47

 

昭和49

昭和50

 

昭和52

昭和55

 

昭和56

昭和57

昭和60

 

平成元

平成2

 

平成7

平成9

平成10

平成11

平成12

平成14

平成15

 

平成16

牛乳・稲作

 

牛乳・稲作

 

牛乳・稲作

牛乳・稲作

 

牛乳・稲作

牛乳・稲作

 

牛乳・稲作

牛乳・稲作

牛乳・稲作

 

牛乳・稲作

牛乳・稲作

 

牛乳・稲作

牛乳・稲作

牛乳・稲作

牛乳・稲作

牛乳

牛乳

牛乳

 

牛乳

経産60

 

経産8、未経産7

 

経産12、育成6

経産15、育成7

 

経産17、育成16

経産23、育成18

 

経産28、育成14

経産25、育成13

経産30、育成20

 

経産27、育成23

経産27、育成23

 

経産42、育成46

経産50、育成50

経産52、育成41

経産53、育成38

経産60、育成18

経産60、育成18

経産54、育成16

 

経産60、育成25

現在の地で、父ほか5名により農事組合法人として酪農を開始

本人結婚

法人を分散し父から本人へ経営移譲

北海道より優良牛2頭導入

長女誕生

6回全日本ホルスタイン共進会へ出品

長男誕生

二女(後継者)誕生

7回全日本共進会へ出品

近代化資金により40頭規模の牛舎を建築

県心身障害者施設より障害者雇用の受け入れを開始

8回全日本共進会への出品

体験学習の受け入れ開始

消費者交流「菜の花まつり」を開始

9回全日本共進会への出品

ロールサイレージを開始

10回全日本共進会への出品(5連続出品を表彰)

広域合併JAの酪農部会長に就任

離農地を活用し現在の草地面積を確保(3,900a)

家畜個体識別モデル事業の耳標を全国で始めて装着

酪農専業へ 第11回全日本共進会への出品

後継者(二女)の就農

家族経営協定の締結

秋田県酪農連盟会長に就任

現在に至る

 


(2)現在までの先駆・特徴的な取り組み

 

経営・活動の推移のなかで先駆的な取り組みや他の経営にも参考になる特徴的な取り組み等

取り組んだ動機、背景や取り組みの実施・実現にあたって工夫した点、外部から受けた支援等

1.家畜個体識別モデル事業への取組

 家畜防疫・生産振興・消費者への責任という観点に立ち、平成11年度から個体識別モデル事業に取り組み、牛群検定事業と連携させた形での個体管理を全国に先駆けて実施。

 

 

 

 

2.全日本共進会への連続出品

 家畜改良による泌乳能力の高い牛群の整備に取り組んでおり、その一環として昭和502月の兵庫県淡路島開催から、6回連続の全共出品を果たし表彰を受けている。

 

3.障害者雇用の受け入れ

 昭和57年から県心身障害者総合援護施設からの障害者雇用受け入れを開始。以降、常時雇用として経営に受け入れ障害者の働く場を積極的に提供している。

 

4.体験学習・消費者交流の開催

 昭和60年から主に地元の園児、小中学生を対象とした体験学習等の受け入れを開始。また平成元年からは「菜の花まつり」と題した消費者交流会を開催している。

 

個体管理を行う上で重要な役割を果たすデータであることから以前より積極的に牛群検定事業に取り組んでいたが、個体の取り違いエラー等が恒常的に発生していた。本事業に取り組むことで個体識別情報を一元的に管理。モデル事業の耳標コードと牛群検定の牛コードの同一化を県が要請した。

 

昭和4911月に北海道から導入した優良牛2頭の血統の維持改良を進めその後継牛での連続出品を果たしている。

 

 

 

地域に県の心身障害者施設があり、障害者の自立訓練や社会参加の実現へ向けた地域支援の一つとして、雇用受け入れを開始した。

 

 

子供達が食と農への関わりを持つ場の提供や、畜種、地域を越えた仲間づくりのための交流会を催し、畜産に対する理解の醸成に努めている。

 

 

5.環境保全対策

 
(1)家畜排せつ物の処理・利用において特徴的な点



1.処理について

 当該経営においては、1ヵ月当り概ねふん116t、尿40tが排せつされるが、混合処理を行っているため、初期段階の水分調整が重要である。敷料はオガクズ、粗飼料残渣、モミ穀を十分に使用するとともに、堆肥舎へふん尿を搬入する際には、堆肥舎床にも通気性材を敷き詰め通気性の確保に努めている。

一次処理は、ショベルローダーによる切り返しを1週間に1回の頻度で30〜40日間行い、以降二次処理として、1ヵ月に1回の頻度で切り返し概ね6ヵ月をかけ良質な堆肥を生産している。

2.利用について

 生産した堆肥のうち60%はいちじくやアスパラ生産農家を中心とした耕種農家へ販売している。販売方法は、2tトラックによる希望場所届けであり販売価格は5,000円/2t車(町内)、6,000円/2t車(町外)と設定している。販売以外の40%については草地に還元しているが、砂丘地という地域特性から耕種農家からの需要が多く、自家利用分が不足する状況にある。

 


(2)家畜排せつ物の処理・利用における課題



 現在は、販売先の希望場所まで運搬しているが、耕種農家の高齢化が進むにつれ、今後は畑作地等への散布までを要望する声が上がることを想定する必要がある。

現状では労働力の問題等により対応は困難であるが、地域の取り組みとして捉え、JA等指導機関や行政と検討を重ねながら、できる限り地域の耕種農家とともに経営が発展できるよう努力していきたいと考えている。

 

 
(3)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み



 牛舎や堆肥舎周辺は山林に囲まれているが、近隣にレクリエーション施設があり一般市民の往来も多い。臭気や害虫等畜産公害の発生へ配慮し、牛舎内外の衛生管理や堆肥化の処理工程には細心の注意を払っている。

 

   

6.地域農業や地域社会との協調・融和のための取り組み

 



1.耕種農家への堆肥販売による耕畜連携

 当該事例が所在する由利本荘市は、日本海に面しており、砂丘地という地域特性から、畑作農家、特にいちじくやアスパラ生産農家からの堆肥需要が多い。本経営では、こうした耕種農家のニーズに応えるべく、十分な副資材の投入と切り返しにより、良質な堆肥生産に努め、購入者の希望先まで運搬し提供している。

今後、耕種農家の高齢化が進むにつれ堆肥の散布までを考慮する必要がある。現状では、労働力の問題等により対応は困難であるが、JA等指導機関や行政と検討を重ねながら、地域の耕種農家とともに経営が発展できるよう努力したいと考えている。

2.体験学習・消費者交流会の実施

 当該事例では、昭和60年から主に地域の保育園児や小中学生を対象に、体験学習等の受け入れを行っている。家畜や自然にじかに触れ、搾乳などの農場作業体験を通して、子供達が食と農への関心を深めてもらえればとの思いから、牧場を開放している。

また、平成元年からは、毎年4月下旬から5月上旬にかけ「菜の花まつり」と題して牧場を開放し、消費者等との交流に努めている。平成17年に開催した交流会では、津軽三味線奏者を招いて演奏を披露し、200名を超える参加者を牧場で絞った牛乳や地元産の牛肉を使った焼肉、手作りビーフシチューでもてなした。酪農以外の仲間とも連携を図りながら、県産畜産物のPRに勤めるとともに、地域を越えた交流や仲間づくりに取り組んでいる。

3.研修生・障害者雇用の受け入れ

 当該事例では、昭和57年から、県の心身障害者総合支援施設からの雇用受け入れを開始し、入所者の自立訓練・社会参加の実現へ向けた支援を積極的に行っている。昭和60年に年間9名受け入れたのを皮切りに、昭和62年から平成8年までの10年間は常時4名、平成9年から現在まで2名を牧場の一員として受け入れてきた。

また、経営主自身が北海道の牧場で研修生として経験を積んだことから、昭和47年に経営移譲を受け現在まで、県内外の高校、大学等から積極的に研修生の受け入れを行い、次代を担う後継者および新規就農者の確保・育成に努めている。

 

 

7.今後の目指す方向性と課題

 


 

(経営者自身の考える事項)

1.経営改善へ向けた取り組み

 今後も計画的な更新による草地基盤整備と、有機質堆肥の効率的草地還元による肥培管理により、良質な粗飼料を生産・確保し、飼料自給率の向上に努めたいと考えている。

また、優良な自家育成牛の確保と、牛群検定成績を活用した経産牛の計画的更新を進め、泌乳能力の高い牛群を整備することにより、経営の安定と基盤強化を図るとともに、ET技術等を活用した付加価値生産へも率先して取り組んでいきたいと考えている。

2.消費者等に対する責任

 県産畜産物の安全性と生産現場の取り組みについて、広く消費者等から理解を得るためには、県内の全酪農家が消費者等に対して責任を果たすという共通の意識を持ち、努力すべきであると考えている。このことから、牛群検定事業への参加による個体管理を推進し、全戸加入を目標に取り組んでいきたいと考えている。

また、消費者等との交流を継続し地域を越えた仲間づくりを進めていきたいと考えている。

3.家族の結びつきと地域社会への貢献

 家族協定の締結や後継者の就農を経て、今後も家族全員で話し合い、協力し、一つになって経営改善に取り組みたいと考えている。

また、経営を取りまく地域との関わりを大切にし、耕種農家との連携をはじめ、体験学習や研修生・障害者雇用の受け入れを継続し、地域社会に積極的に貢献していきたいと考えている。

 

 

 

8.事例の特徴や活動を示す写真

 


  経営主の柴田輝男さん・誠子さんご夫妻

ご主人が菜種を蒔いた菜の花畑をバックに
 
  経営主自身が補修を繰り返し、長く大事に

使われている牛舎

  生産した堆肥は、地域の畑作農家、主に

いちじくやアスパラ生産農家に供給

  約40haの草地を利用

半乾サイレージを通年給与している

  飼料イネWCSは、地域のコントラクターを

活用し、作業の省力化を図っている

  経営主が力を注ぐ牛の改良 成果を確認

する機会として共進会にも積極的に参加

  消費者等を招いての交流会の様子

毎年、たくさんの参加者が牧場を訪れる

  家畜や自然にじかに触れ、食や農への

関心が深まればという経営主の思い